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木材生産

森林は私たちの生活に不可欠な木材を提供してくれます。その用途は製材・合板用材、パルプ用材、薪炭材など様々です。このような木材生産の機能を高めるには、生業としての林業の生産性・収益性の向上が必要となります。このような観点から、「儲かる林業の追求」に関わるキーワードを7つ挙げています。一方で、森林には木材生産以外にも多様な機能があり、木材生産を行う際にも森林の有する多面的機能に配慮することが求められています。このような観点から、「木材生産とその他の多面的機能の調和」に関するキーワードを4つ挙げています。

<儲かる林業の追求>
新たな品種・樹種

エリートツリー、早生広葉樹など

造林・育林技術

コンテナ苗、下刈り・薬剤除草、植栽密度、除伐・間伐など

病虫害・獣害対策

シカなどによる被害、スギ・ヒノキの暗色枝枯病など

伐採・搬出技術

皆伐・択伐、車両・架線集材、作業道・林道など

ゾーニング

林業適地の判定、地位・地利推定など

サプライチェーン

川上・川下連携、需給マッチングなど

将来的な配慮

気候変動の影響、災害リスク、長期的な需要の見通しなど

<木材生産とその他の多面的機能の調和>
野生動植物の保全に配慮した木材生産技術

森林は多様な生物に生育・生息の場を提供します。

水土保全に配慮した木材生産技術

森林には、水や土壌の保全機能や調整機能が期待されています。

地球温暖化緩和に配慮した木材生産技術

森林は、炭素の循環や、太陽光・水蒸気とのやり取りを通して気候を調節することで、地球温暖化を緩和できることが期待されています。

健康・教育・文化に配慮した木材生産技術

森林には、健康づくりや教育の場としての効果が期待されています。また森林には文化的な側面も存在します。

水土保全

森林には、水や土壌の保全機能や調整機能が期待されています。ここでは、「水土保全機能を水源涵養機能(水の貯留、水質の浄化、洪水の緩和)」と「土壌保全機能(表面侵食の抑制、崩壊の抑制)」に分け、それぞれの機能に関する複数のキーワードを挙げています。

<水源涵養機能>
水の貯留

森林土壌には、水を土壌中の小さな隙間に一時的に蓄え、ゆっくりと下方へ(基岩や渓流へ)流す働きがあります。このように、森林が無い場合と比較して、土壌中や山体基岩に一時的に蓄えられる水量が多く、雨が降らない期間(渇水時)でも河川から安定的な水が供給されることが期待されています。

水質の浄化

森林内に降った雨水は、渓流へと流れていく過程の中で、主に土壌中の隙間に化学物質が吸着され、濁りが軽減されます。このように、森林に降ったままの雨水に比べ、私たちが利用しやすい水質が形成されることが期待されています。

洪水の緩和

森林土壌の降雨を一時的な貯留する働きやゆっくりと渓流へ送り出す働きは、森林が無い場合と比較して、降雨時の河川流量の増大を抑えるとともに、最大流量の発生時間を遅らせることが期待されています。

<土壌保全機能>
表面侵食の抑制

森林内の林床植生や落ち葉は、雨粒による地表面への衝撃を緩和する作用や地表面を伝って流れる水の量や勢いを抑制する作用などから、地表面保護の役割があると言われています。これらの作用により、地表面から土壌の流亡(侵食)を抑制することが期待されています。

崩壊の抑制

ここでは、写真のような土壌中や、土壌と岩盤の境などの比較的に浅いところから発生する表層崩壊に着目します。(岩盤からなどの比較的に深いところから発生する深層崩壊は対象としません。)このような表層崩壊は、樹木の根っこによる土壌を保持する作用(土塊の連結や杭効果など)により、抑制されることが期待されています。

野生動植物保全

森林は多様な生物に生育・生息の場を提供します。人為的影響がほとんどない原生林だけでなく、人工林や二次林も生息地として重要な役割を果たします。汚染・土地改変・気候変動・外来種・乱獲が生物多様性への脅威であることを踏まえ、「生息地としての森林」、「生息する野生動植物」のそれぞれに対するアプローチをキーワードとして挙げています。

生息地の保護

原生林のような、保全上の価値が特に高い森林への人為的影響を軽減する自然保護区の新設や維持は、生物多様性への脅威を遠ざけることに繋がります。既存の保護区の評価や新たな保護区の選定の際には、対象地の面積や連結性、対象種の分布、生物多様性の指標(種だけでなく機能的・系統的な種ごとの性質も含む)などに配慮する必要があります。

生息地の回復・管理

汚染・土地改変・気候変動により、生息地として不適となった場所では、植林などによる森林面積の回復が有効な場合があります。また、人工林や二次林などの人為的影響のある森林も、間伐や混交林化・広葉樹林化などの適切な管理により、多様な生物の生息地としての機能を高めることができます。

病虫害・野生鳥獣害への対策

病虫害の発生、野生鳥獣による食害や樹木の剝皮は、大規模な樹木の枯死、特定の種の絶滅・優占を通じて、森林生態系を劣化させることがあります。対象植物の保護や忌避剤の散布などの被害防除、緩衝帯の設置、捕獲による野生鳥獣の個体数調整などの対策を行う必要があります。

外来種の防除

自然分布域の外から人為的に持ち込まれた外来種は、固有種の減少、遺伝子撹乱、森林の改変・破壊を引き起こし、生物多様性を減少させる主要因となっています。特に侵略性の高い外来種に対しては、侵入防止や定着予防、分布拡大阻止・根絶を目指した駆除を行うことが求められます。

絶滅危惧種の保全

存続が危ぶまれる種の絶滅を回避するためには、対象種の必要とする生息環境の維持・改善、乱獲や開発への規制(生息域内保全)や、人間の管理下での対象種の飼育・栽培・増殖(生息域外保全)の実施が必要です。絶滅の危険性が高い場合は、生息域外から域内へ個体を定着させる野生復帰も有効な手段となります。

健康・教育・文化

森林は人々の健康や教育、文化に関する様々な便益を提供します。このような便益は人間が健やかで文化的な生活を送るうえで欠かすことができません。また、こうした便益のなかには観光資源のように重要な経済的効果をもたらすものもあります。ここでは、森林がもつ健康・教育・文化的価値に関する幅広いテーマを取り上げます。

環境教育の場・素材

森林における生態系や野生動植物とのふれあいは、人々(とりわけ子供たち)に対して自然を学ぶ重要な機会を提供しています。こうした森林での環境教育は、人々の生態系に対するリテラシーを向上させるだけではなく、社会の環境保全意識を醸成する機能も有しています。

エコツーリズムの資源

国立公園をはじめとした多くの森林はエコツーリズム(地域固有の自然を生かした観光)の資源としての機能を有しています。エコツーリズムは、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながるだけではなく、地域コミュニティに経済的なメリットももたらします。

芸術へのインスピレーション

森林における生態系や野生動植物は、古くから歌や絵画等の芸術作品の題材として、また近代では写真や映像作品の素材としてよく用いられてきました。もちろん、森林は作品の題材として直接的に芸術に貢献するだけでなく、作者にインスピレーションを与えることもあります。

人間の健康や福利の維持・向上

森林における生態系や野生動植物とのふれあいは、心身の健康に関する様々な便益を提供します(例えば、精神疾患や生活習慣病の予防)。こうした便益は国立公園のような大自然だけではなく、都市緑地のような二次的な森林環境でも発揮されることが知られています。

景観・風致の維持

森林は、美しい景観・風致を維持する役割を果たしています。森林があることで、町に統一感や季節感、趣が生まれるためです。こうした景観・風致の維持は、居住者の生活の質を高めるだけでなく、観光資源として機能することもあります。

伝統文化・知識の維持

世界には、森林の活用を通して様々な文化や知識(伝統知)が生まれてきました。こうした文化・知識は衣食住に関わるものから、文化的な行事に関するものまで様々です。

地球温暖化緩和

森林は、炭素の循環や、太陽光・水蒸気とのやり取りを通して気候を調節することで、地球温暖化を緩和することが期待されています。

森林生態系による二酸化炭素の吸収

森林は光合成を行うことで温室効果ガスである二酸化炭素を吸収します。自動車1台から排出される二酸化炭素量を約2300kg/年と見積もると、その量を吸収するのに必要なスギは約160本と試算されています。

森林生態系内での炭素貯蔵

光合成により吸収された二酸化炭素は、炭素として長期に渡り森林に貯蔵されます。目安として、スギなら1~3 t/ha/年の炭素が、広葉樹なら1 t/ha/年ほどの炭素が吸収され貯蓄されると言われています。

森林生態系外での炭素貯蔵と化石燃料代替

吸収された炭素は森林生態系内だけでなく、伐採され、木材化・製品化(例えば、木造住宅や木造家具など)された後も炭素として貯蔵され続けます。また、生態系外に持ち出された木材は木質バイオマスとしても利用されます。

森林生態系による大気中の水分や光・熱のやり取りによる
気候調節機能の変化

樹木は水分を葉から蒸散させる際に太陽の熱を奪い、気温と湿度の上昇を妨げます。暑い夏、都市緑地などでは森林が太陽光を遮断し木陰を生み出すことで、ヒートアイランドの緩和が期待されます。より広域なスケールでは、太陽光が森林の葉に当たり吸収されたり、照り返されたりすることでも気温に影響を与えています。